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京都地方裁判所 昭和55年(タ)68号 判決 1981年9月24日

原告 甲野花子

右訴訟代理人弁護士 石田法子

被告 U・C・D・K

主文

一  原告と被告とを離婚する。

二  原被告間の長女R・N・D・K(一九六六年四月一六日生)の親権者を原告と定め、長男L・N・D・K(一九六九年一二月一三日生)の親権者を被告と定める。

三  訴訟費用は被告の負担とする。

事実

一  請求の趣旨

主文同旨の判決を求める。

二  請求の原因

1  原告は日本国籍を有し、被告はフィリピン共和国国籍を有するものであるが、原被告は、一九六五年(昭和四〇年)七月二六日フィリピン・マカベべ・パンパンカにおいて同国判事婚姻証書の作成により、同国法に基づいて婚姻し、同年八月一三日同国パンパンカ県マカベベ市役所地方民事戸籍登記所に登録し、一九六六年六月九日在マニラ日本国総領事に届け出た夫婦である。

2  原被告間には、一九六六年四月一六日に長女R・N・D・Kが、一九六九年一二月一三日に長男L・N・D・Kが出生した。

3  原被告は、婚姻後フィリピンの被告住所地において、被告の家族らと同居した。当時、被告は姉の仕事を手伝っていた。

4  しかし、原告は、フィリピンの気候・風土に合わず、健康を損って、昭和四五年八月長男Lをつれ帰日した。その九か月後、被告も長女Rの幼稚園終了を待って来日し、京都市の原告の実家で、親子四人の生活をした。この間、原告が英語教師をする等して得た収入と原告の実家からの援助で生計を立てていた。

5  被告は、日本国政府の入国管理政策により、長期滞在のビザを得ることができず、定職につくことができないままぶらぶらしていたが、昭和四六年末ごろ、長男Lのみ伴ってフィリピンに帰った。以後、原告が日本国内で職を得て長女Rと暮らし、同女を養育してきたが、被告の再度の来日も生活費等の送金もなかった。

6  その後、昭和五一年ごろから現在まで、被告は他の女性(フィリピン人)と自国で同棲して事実上の夫婦生活を行っており、原被告の婚姻はもはや復元する可能性なく破綻している。そして、原被告とも、すでに婚姻を継続する意思がない。

7  右のような場合、日本法によれば、協議離婚又は離婚の訴提起ができるところ、フィリピンの法律に離婚の規定を欠いているところから、いずれの方法もとれず、原被告は形式のみの夫婦関係にしばられている。

しかしながら、このような場合にまで離婚を認めないフィリピン法は我が国の公序良俗に反するので、法廷地法であり、妻たる原告の国籍地、居住地である内国法規が適用されるべきである。

8  よって、民法七七〇条一項一号、五号に基づき、本訴に及んだ。

三  被告は、適式な呼出しを受けたが、本件口頭弁論期日に出頭せず、答弁書その他の準備書面も提出しない。

四  《証拠関係省略》

理由

一  《証拠省略》によれば、請求原因1ないし6の事実及び昭和四六年末ごろ以降現在まで、原被告の長男Lはフィリピンの被告の住所地において被告の手で養育されており、原被告は相互に、原告が長女を、被告が長男を今後ともそれぞれ監護教育することを承認し合っていること、長女Rは現在日本の学校に通学しており、原告は同人を将来日本に帰化させたい希望であることを認めることができ、右認定を左右するに足る証拠はない。

二  ところで本件は、日本国籍を有する妻である原告から、婚姻以来現在までフィリピン共和国(以下「フィリピン」という。)の国籍を有する夫である被告に対し、不貞行為と婚姻を継続し難い重大な事由を理由として離婚を求める訴えであるから、その成立要件及び効力に関する準拠法は、法例一六条により、夫の本国法たるフィリピン法によるべきこととなり、この場合に同国の法律には日本の法律によるべき旨の規定はないので、いわゆる反致は成立しないものであるところ、フィリピンは国策として離婚を禁止しているので、同国の法律には離婚の規定を欠いており、それに代るものとして判決による裁判別居のみが制度として認められ、離婚により婚姻関係を解消することができない。

フィリピンの右法制度ないし規定自体が公序良俗に反するということはできないから、右のことから直ちに同国の法律の適用を排除することはできないけれども、本件のように、妻である原告が協議上・裁判上の離婚を認める法制下にある日本国民であり、現在まで継続して一〇年以上日本において居住し、嫡出子とともに今後も日本における生活を希望している一方、夫である被告がフィリピンに帰国して一〇年近く経過し、婚姻そのものが形骸化している場合にもフィリピン法を適用して、理由の如何を問わず終生原告に離婚の道を閉ざすことは、その結果において我が国の公序に反するものといわねばならないから、その反する限度において、法例三〇条により、フィリピン法の適用は排除されるべきである。ただし、離婚を認める場合であっても、直ちに原告の本国法であり内国法である我が国の民法を全面的に適用するものと解すべきではなく、本来の準拠法であるフィリピン法において離婚に準ずる制度として認められている裁判別居(法定別居)の要件及び効果は、我が国の民法による離婚原因に当たり、結果が公序良俗に反しない限り、離婚の要件、効果として類推適用すべきものである。

三  そこで、本件につきこれを見るに、さきに認定したとおり、被告には特定の異性との同棲による不貞行為の継続の事実が認められるところ、フィリピン民法九七条によれば、配偶者の一方の貞操義務違反(妻の姦通及び夫の蓄妾)は別居請願事由になる旨規定してあり、日本の民法七七〇条一項一号の離婚原因にも当たるので、右規定を類推適用し、原告には離婚原因が存在するといわねばならない。

したがって、原告の被告に対する離婚請求は正当である。

そして、フィリピン民法一〇六条(三)により、未成年の子の監護権は原則として無責配偶者に与えられなければならないから、右規定を類推適用して、長女Rの親権者を原告と定めるが、右条項によれば、裁判所は子の利益を考慮しなければならないので、前記事実関係から、長男Lの親権者を被告と定める。

よって、原告の請求を認容し、民訴法八九条に従って、主文のとおり判決する。

(裁判官 堀口武彦)

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